マンション管理士試験過去問研究(第10回)解説編(1)
さっそくですが、マンション管理士試験過去問研究(第10回)の解説をやります。
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マンション管理士試験平成22年度問1・問2
マンション(マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「マンション管理適正化法」という。)第2条第1号イに規定するマンションをいう。以下同じ。)の専有部分等に関する次の記述のうち、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)によれば、正しいものはどれか。
1 区分所有者が全員で共有する専有部分については、規約で定めなくても共用部分とすることができる。
2 規約で定めれば、区分所有者の共用部分の共有持分とその有する専有部分は、分離して処分することができる。
3 専有部分以外のマンションの建物の部分は、すべて共用部分であり、それ以外の部分はない。
4 区分所有者は、区分所有権の目的である専有部分を自由に使用、収益及び処分することができ、規約によっても、制限されない。
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一般的な資格試験では、4肢択一(あるいは5肢)マークシート試験方式が多く、内容を理解していなかったとしても、過去問の問いと答えを暗記することで、合格できる場合が多いです。
マンション管理士試験も4肢択一マークシート試験方式であり、最近は過去問のストックがたまってきましたので、過去問を何度も繰り返すだけで、合格することは十分可能になったと思います。
過去問に登場する論点をQ&A方式でどんどん暗記してゆけば、意味もわからないし理解もしていないけど、試験の4肢択一問題は解けるという状態になれます。
ただ、そういう不毛な過去問詰め込みに膨大な時間を費やすことに意味はあるのでしょうか?
合格証書さえ獲得できれば、それで成功といえるのか?
詰め込み作業へ突入する前に、一度、立ち止まって考えてみてほしい・・・
というのが今回のテーマです。
問1からやりましょう。
「1 区分所有者が全員で共有する専有部分については、規約で定めなくても共用部分とすることができる。」
区分所有法4条2項によれば専有部分は規約により共用部分とすることができるとされているので本肢は誤り、とするのが一般的に過去問集などに書かれている解答でしょうか。
それはそれで間違いではないのですが、きちんと勉強して実力養成しようと考える人なのか、単なるクイズ詰め込みの人なのかによって、本肢の出題意図の感じ方は違うと思います。
クイズ詰め込みの人にとっては、4肢択一解答ゲームの正解が発見できれば何でもいいわけで、意味とか理解とか実力とか、そういうものはどうでもいいわけですから、
「規約共用部分の設定には規約が必要」、だから、本肢は間違いということで話は完結するでしょう。
「規約共用部分」⇒「規約が必要」⇒「だから誤り」、という筋で試験問題が作られていたとすれば、ずいぶんくだらないヒッカケ問題を試験委員は作ったことになりますが(笑)
クイズ詰め込みの人にとっては、正誤さえはっきりすれば、どれだけ内容を貶めようと話を矮小化しようと関係ないわけです。
クイズに正解して合格証書を手に入れるのが目的なわけですから、問題ないのでしょう。
それに対して、本格的に勉強し実力を身につけようとする人にとっては、本肢にはいくつかの前提が隠されていることに気付くでしょう。
この肢の問題点は
そこで、本肢の「区分所有者が全員で共有する専有部分」というのは、全員の共有物である以上、全員で使う部分なのですから、自動的に共用部分でいいんじゃないの?
一般人的には、共用部分というのはみんなで使用する所くらいの感覚でしょうから、当然、実務では起こりうる疑問です。
だから、この場合は、「全員で共有しているのだから共用部分でいいんじゃない」というマンション住人の質問に対して、どのような説明をすべきなのかを念頭において考えれば、的確に実力養成が進むと思います。
まず、問題なのは「民法上の共有と区分所有法上の共用部分が別物であるということ」です。
一般人には「共有」と「共用部分」の区別はつかないですから、
「全員で共有している」⇒「みんなで使う」⇒「共用部分」
という感覚は普通でしょう。
だから、本肢に対する「クイズの正解」ではなく、現実社会で通用する解答は、
1.民法上の共有と区分所有法上の共用部分が別物であり
2.だから、民法上の共有であっても自動的に共用部分となるものではなく
3.規約の設定により初めて共用部分となる
という説明が必要ということになります。
つまり、上記1と2の話が頭に浮かぶかどうかが、クイズ詰め込みと本格勉強との違いともいえましょう。
また、直接は関係ないですが、本肢では、法定共用部分と規約共用部分との違いも問題になります。
法定共用部分は、規約などなくとも自動的に共用部分です。
規約共用部分は、規約の設定によって共用部分となる。
というのは既にご存知でしょうが、
法定共用部分を表現している条文は4条1項によりますと、
<4条1項>「数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。」
とあって、本肢の「区分所有者が全員で共有する専有部分」というのは、4条1項にいう「区分所有者の全員共用に供されるべき建物の部分」ということで、共用部分ではないか?と、問題にする余地があるわけです。
つまり、「共用部分=全員で使用する部分」という理解であったとすれば、
「区分所有者が全員で共有する専有部分」は「全員で使用する部分」といえなくもないので、「区分所有者が全員で共有する専有部分」が法定共用部分という論理もありうるのではないかということです。
もちろん、答えはノーなのですが、
その説明のためには、法定共用部分と規約共用部分との違いの理解が必要となります。
ご承知のとおり、法定共用部分と専有部分(規約共用部分)との違いは、「みんなで共有しているかどうか問題ではなく、構造上の問題ですから、専有部分が法定共用部分になることはありません。
そのあたりの背景もつっこんで説明できれば、より本質的な理解へたどり着くことかと思われます。
そして、それが本来あるべき勉強というものだろうとも思います。
「2 規約で定めれば、区分所有者の共用部分の共有持分とその有する専有部分は、分離して処分することができる。」
これも、クイズの人は、15条2項の文言をとらえて、
誤)「規約で定めれば」
正)「法律の定め」
という言葉のひっかけ問題だとするのでしょう。
これも、そういう話を言葉レベルに矮小化するのではなく、
22条1項で規約による分離処分が可能になることと、15条では規約をもってしても分離処分が可能にはならないことの差異をしっかりと理解していただきたいところです。
そうすれば、言葉ひっかけではなく、規約をもってしても分離処分ができないことの重要性を問う問題であることがわかると思います。
「3 専有部分以外のマンションの建物の部分は、すべて共用部分であり、それ以外の部分はない。」
結論としてはそのとおりですが、理由を考えて説明を用意しておきましょう。
この場合に、条文(2条4項)に「専有部分以外の建物の部分は共用部分」としてある、というのを「理由」とするのはクイズです。
法律論としては、本肢が条文のとおりであることは間違いないので、条文のとおりだから正解とするもの間違いではないですが、社会常識の問題として、誰かに物事を説明する場合には、それ相応の理由づけが必要です。
法律の仕事の実務において、「それは条文のとおり」として依頼者等を納得させられると考えているとすれば、問題だと思います。
我々法律家の仕事には、一般人の方々に理解をしていただけるよう、条文なり規定なりの内容を説明することにあります。
「それは条文のとおりだから納得せよ」、というのでは法律家ではなくただの権威主義者です。実務はできません。
だから、本肢でも説明を考えてみましょう。
論理的に攻略する方向もありますが、簡単な説明としては、「専有部分」「共用部分(一部共用部分)」以外の部分があったとしたら、それは何か?ということです。
個人の所有物(専有部分)でもない、みんなで共有する部分(共用部分)でもなく、一部の人々で共有する部分(一部共用部分)でもばいとすれば、さて、それは一体何なのか?そういう部分を具体的に観念することは難しいのではないでしょうか。
説明のために一部共用部分の議論を置くとすれば、
1.個人の所有物(専有部分)
2.みんなで共有する部分(共用部分)
にきれいに2分されていることが、権利関係も管理も明快だということです。
1でも2でもない第3の部分を作ったとしても、権利関係や管理の問題を混乱させるだけであって、良いことは何もありません。
だから、専有部分、共用部分の2分割が明快であると思います。
他の説明もありますので、一度、考えてみるのもよいかと思われます。
「4 区分所有者は、区分所有権の目的である専有部分を自由に使用、収益及び処分することができ、規約によっても、制限されない。」
これもクイズの答えが出ればよいと考えるのでなければ、丁寧に論点を拾って検討してください。
専有部分の(1)「使用」(2)「収益」(3)「処分」が、規約によって制限されているかどうかが問われておりますので、3点について検討するということです。
(1)「使用」について
専有部分の使用について、規約で制限できるかどうかは、30条1項の解釈によります。
「<区分所有法30条1項>」建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」
上記「建物」が、共用部分を指すのか、専有部分と共用部分の両方を指すのかが問題となりますが、文言どおり建物全体(専有部分と共用部分)を指すことと解されております。
理由は、専有部分であったとしても、建物の管理等のため、一定の制約を加える必要性があります。
論理的には専有部分は個人の所有物であるので自由に利用できるはずですが、現実には専有部分のむちゃくちゃな使用により他の専有部分や共用部分へ大きな影響を与えることもあるわけです。
よって、規約により共用部分は当然として、専有部分の使用制限も認められることとなっております。
(2)「収益」について
上記30条1項では、「管理又は使用」に関する事項について、規約設定ができるとありますので、その反対解釈により「収益」については、規約による制限はできないこととなります。
と、いうのがクイズ的な解答になるのでしょうが、ここは現実的に考えてみます。
「収益」、すなわち専有部分を賃貸したりして賃料を稼ぐようなことですが、専有部分は個人の独立した財産ですので、この「収益」を前面禁止することは認められないと考えるべきでしょう。財産権の侵害というやつです。
しかし、たとえば「居住専用とする」という規約による専有部分の使用制限があった場合、事務所とか学習塾などとして「収益」はできないわけですから、現実的に規約が「収益」に関する制約となっているわけです。
これをどう考えればよいのでしょうか?
結局これは、「財産権の侵害」と「建物の維持・管理の必要性」という2つ問題の優劣をどのように考えるかということになると思います。
そこで私見ですが、賃貸禁止という規約を設定するような完全に財産権を侵害するような規約設定は認められないが、「建物の維持・管理の必要性」の範囲で収益行為が制限されることはやむをえないということになるのだろうと思います。
(3)「処分」について
「処分」については、規約による制約は「財産権の侵害」にあたり認められないと考えればよいと思います。もちろん30条1項の反対解釈でもあります。
「収益」と違って「処分」の場合は、管理に影響を与えることが理論的にはないので、管理のために規約による制約を加えるという論法が成り立たないからです。
念のために、15条や22条1項は、規約によって処分を制約するという話ではないことを確認していただければよいかと思われます。
ということで、問2については、次回とさせていただきます。