マンション管理士試験過去問研究(第6回)解説編
マンション管理士試験過去問研究(第6回)の解説をします。
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平成20年度マンション管理士試験問27
規約又は集会の決議の効力に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。
1 近隣住民との協定に基づく電波障害防止設備の維持管理費を区分所有者が負担する旨の規約の定めを変更し、近隣住民に負担させることとする旨を規約に定めても、近隣住民に対して効力は生じない。
2 規約を改正し、管理費等の支払義務について、賃借人も区分所有者と連帯してこれを負担しなければならない旨の定めを置いても、賃借人に対する効力は生じない。
3 駐車場使用料を社会的に相当な範囲で値上げすることについて集会で決議したが、駐車場使用契約書に使用料の額が記載されている場合には、これを使用している区分所有者の承諾がなければ決議の効力は生じない。
4 広告塔を撤去し屋上を緑化することについて集会で決議したが、その広告塔設置のため屋上を賃借している第三者がいる場合には、その第三者の承諾がなければ決議の効力は生じない。
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今回は、特殊なテクニックを用いるのではなくて、流れるように自然に考えて、自然に答えを出す。
そういう感じでやってみたいと思います。
肢1ですが
「近隣住民との協定」とは、「近隣住民」と「区分所有者全員」との契約と考えるのが自然だと思います。
で、契約を変更する場合
たとえばAとBが契約を結んだとして、その内容を変更するのにAの一方的な意思で可能かどうか・・・普通に無理ですよね。
また、このマンションの規約とか集会の決議とかは、区分所有者を拘束するだけで、近隣住民へは何の拘束力もない。
ので、どちらにせよ、「近隣住民に対して効力は生じない」は正しい。
肢2ですが、これはよくある問題ですね。
念のため復習しておきますが、
規約は、賃借人(占有者)を拘束しますが、限定的です。
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(規約及び集会の決議の効力)
第46条 規約及び集会の決議は、区分所有者の特定承継人に対しても、その効力を生ずる。
2 占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。
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46条2項にあるように、「使用方法」については、規約を守る必要があるけど、反対解釈でそれ以外の規約の効力は、占有者には及ばない、ということ。
また、46条は強行規定ですので、及ぼす変更も認められないということです。
よって、
「管理費等の支払義務」に関する規約の効力は、占有者には及ばないので正しい。
肢3ですが、
これは有名な判例ですので、結論はすぐにでた方も多いと思います。
しかし、この問題における論点を把握してその内容を考えてほしいですね。
市販の過去問集には、ほとんど書かれていませんが、この問題には、大きく2つの重要な論点があります。
世の中、玄人基準(専門家基準)というものがあります。
素人さんであれば別にどちらでもよいけど、玄人であれば絶対に押さえておかなければならない(こだわらなければならない)部分のことです。
法律家の場合は、それは条文です。
本問では、メイン論点としましては、「社会的に相当な範囲での値上げについて承諾が必要か否か」という論点を検討していただければよいと思います。
が、
一般人であればそれだけでよいのですが、玄人(つまり法律の専門家)であればその前提として必ず検討しなければならない部分がこの問題にはあります。
それは、何かといいますと・・・
区分所有法31条1項では「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」とあるのですが、集会の議事の条文である39条1項にはそのような文言はないので、
単純に解釈すれば
規約の設定、変更、廃止については(31条1項)、もしそれが「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」けれども、集会の決議によって決めた場合(39条1項)には、条文上規定がないので、承諾は必要ないということになります。
ということは、本問は規約変更ではなく集会の決議なので、「特別の影響」がどうこう以前に、そもそも承諾は不要ということになります。
さて、それでよいのでしょうか???
一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすようなことを管理組合が決定しようとする場合に、規約変更という形式をとれば承諾が必要だけれども、集会の決議による決定という形式をとれば承諾は不要ということになります。
また、規約変更だと3/4以上必要ですが、集会の決議であれば過半数でよいということになります。
そうすると、
1.同じことをするのに、形式によって承諾の要否が異なるのはおかしい。
2.同じことをするのに、形式によって決議要件が異なるのはおかしい。
という問題点があります。
そこで判例は、1.集会の決議による場合も区分所有法31条1項後段を類推適用して、承諾が必要である。2.直接規約を設定・変更等しなくとも、 規約の定めに基づいて総会を開催し4分の3以上の多数決議をもって専用使用権を変更等することが可能である、としております。(最判平成10年11月20日、最判平成10年10月30日)
ということで、
本問のような「集会の決議」による値上げ決議は有効であり、また、区分所有法31条1項後段を類推適用により一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないこととなります。
いかがでしょうか。
専門家というのは、めんどくさいこと言うのですよ(笑)
市販されている過去問集では、上記のような議論は出てこないですが、別に法律の専門家になる試験ではないので、受験的にはいいということなのでしょう。私もそれはそれでいいと思います。
ただし、
専門家の立場からすれば、市販本の解説のようにいきなり「特別の影響」がどうこうという話をするのは問題外です。解説しましたとおり、規約の変更ではなく集会の決議ですので、「特別の影響」という条文がないからです。
もし、皆様が専門家を志望されるのであれば、条文は丁寧に読んで、大切にすることを心がけてほしいと思います。
ま、それはそれとして
前提議論が終われば、後は「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するかどうかの検討ですが、これは判例にもありますように、「社会通念上相当な使用料であれば、変更等を受忍すべき」(つまり承諾は不要)ということになります。
区分所有法31条1項の「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」というのは、数の力による多数派の横暴があった場合に「承諾」を要求することによって少数派を保護しようとする規定です。
しかし、何でもかんでも「承諾」が必要であるとすれば、多数決が機能しなくなって、事実上、全員の同意がなければなにも出来なくなってしまいます。
「迅速、円滑な意思決定のための多数決制度」VS「少数派の保護」
この相反する2つの利益の調和といいますか落としどころが問題となるのです。
そこで、判例の考え方は、
当該権利者の不利益と、 廃止・変更する必要性・合理性とを比較して、常識的な範囲であれば多数決を優先させるが、不利益があまりに大きい場合は少数派の保護を優先させなさい、としたわけです。
本問でわざわざ「社会的に相当な範囲で値上げ」と書いてあるのは、そういうことです。
肢4ですが、
「広告塔を撤去し屋上を緑化すること」は重大変更として集会で決議することは可能です。
ただし、集会の決議の効力は区分所有者および限定的に占有者にしか及ばない。
よって、屋上を賃借している第三者には、この集会決議の効力は及ばないので、決議の効力を生じさせるためには、その第三者の承諾が必要となる。
そういうところでしょうか。
論点としましては、
規約・集会の決議は区分所有者および限定的に占有者を拘束するけどそれ以外の第三者には何の拘束力もない、ということをきいているわけです。
理解としては、「承諾」というより、もともと集会の決議は第三者には無関係ですので、その第三者との間に何らかの法的効力を発生させるには、別段の契約とか同意とかそういう類のものが必要だということです。
本問では、それが「承諾」という形になったということになります。
ということで、解説はこれくらいにさせていただきます。
では、また