マンション管理士試験過去問研究(第2回)解説編(2)

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平成18年度マンション管理士試験 問5

マンション管理組合における区分所有者の共有に属する敷地及び共用部分の管理等に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、正しいものはどれか。ただし、規約に別段の定めはないものとする。

1.甲が敷地の一部にある樹木を伐採し、駐車場として隣接するマンションに賃貸する場合は、区分所有者及び議決権の各3/4以上の多数による集会の決議(以下「特別決議」という。)を得なければならない。

2.甲が集会所として使用するため隣接する土地及び建物を購入しようとする場合は、購入について、特別決議を得なければならない。

3.甲が建物の外壁のひび割れに係る補修工事を行う場合は、特別決議を得なければならない

4.甲が悪質な敷地内駐車を繰り返す区分所有者に対して、駐車違反の停止を請求する場合は、あらかじめ当該区分所有者に弁明の機会を与えるとともに、特別決議を得なければならない。

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こういう事例問題について、

法律の規定を知っているかどうか(いうなれば知識)が問われることは、もちろんあります。

しかし、おおむね知識よりも、事例(事実)の評価が問われることが多いです。

たとえば本問では、

「重大変更⇒特別決議」という知識をききたいのではなくて、事例の中に出てくる事実が重大変更にあたるかどうか、その評価をきいているわけです。

事実の評価、というところです。

で、この事実の評価というものですが、評価するためには評価基準が必要です。



そして、事例問題に強くなるためのは、評価基準をマスターするという観点が必要です。といいますか、事例問題の勉強とは評価基準の勉強といえることが多いのです。

どういう基準で評価するか、その評価基準がこういう事例問題では一番重要な問題となるからです。



まずは、条文を見てみましょう。





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区分所有法17条 

共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の3以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

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おなじみの条文ですが、二重否定になっている部分を直すと、

「その形状又は効用の著しい変更」があれば重大変更で、そうでない変更は軽微変更(18条1項)ということになります。

まあ、これはこれでいいのですが、「一般的には」この条文を基準にして問題を解いてゆくのは難しいと思います。

つまり、立法趣旨とか標準規約とかの知識があいまって、この条文を見ればある程度見えてくるものはありますが、「一般的には」そこまでの知識はないので、苦労することとなります。

ハッキリ言って

市販本とかでは、この条文の基準(その形状又は効用の著しい変更)によって重大変更であるかないか判別できるように書かれてありますが、

「それは無理です」

いくら懸命に、この条文に線をひいて、マークして丸暗記しても

「問題は解けません」

理由は簡単で、この条文は、条文から演繹的に結論が出るように作られたものではなく、結論から帰納的に作られたものだからです・・・って簡単じゃないですね(苦笑)

要は「条文⇒結論」ではなく「結論⇒条文」と感じになっておりまして、

はじめに答え(結論)があって、その結論の一応の説明として条文を作ったというところでしょうか。だから条文のみで、ロジカルに答えが導けないという困った状況になっております。

まあ、いいでしょう。それは、いってても仕方ないですので・・・





で、どう対策するかですが、

一番容易な方法は事案とその結論を覚えてしまうことですね。

当然、私の試験勉強に対する立場からは、おすすめすることは出来ないですが、事実として試験問題の答えを出すだけなら、標準規約にある例示(マンション標準管理規約47条コメント⑤)の暗記が最短でしょうね。

なぜなら、

この条文につきましては、作られてそれほど年月が経っていないので、判例理論の蓄積がありません。

そうすると、試験作成者としては、他に有力な基準がないので、標準規約にある例示(マンション標準管理規約47条コメント⑤)から大きく離れることはできないと考えられるからです(事実、過去問はそうなってます)。

よって、

区分所有法18条1項の条文は軽く流して、マンション標準管理規約47条コメント⑤を覚えるのが最適ということになります。




ただし、

私の勉強方針では丸暗記禁止ですので(笑)

この重大変更の基準について、まじめに考えることにしましょう。




第1基準

まず、条文からは「その形状又は効用の著しい変更」ですので、

1.姿、形が大きく変わったか?

2.用途、使い道が大きく変わったか?

といったところが、アバウトな第1基準となります。




次に、マンション標準管理規約47条コメント⑤&マンション管理士試験過去問&管理業務主任者試験過去問から、第2基準を探りますと、以下のようになります。



第2基準 その1

マンション標準管理規約47条コメント⑤では「基本的構造部分への加工」とか「建物の躯体部分に相当程度の加工」という表現があります。

これは、工事の内容といいますか度合いの問題で、建物の「基本的構造部分」「躯体部分」へ加工するなら重大変更だけど、そうでなければ軽微変更でやれるという意味と考えられます。

ラフにいえば、柱とか壁とか建物の重要部分をゴリゴリ工事したら重大変更になるけど、壁にちょっと手すりを取り付けるようなライトな工事は軽微変更であるということです。




第2基準 その2.

マンション標準管理規約47条コメント⑤では、

計画修繕関係(鉄部塗装工事、外壁補修工事、屋上等防水工事、給水管更生・更新工事)は、軽微変更(普通決議)で可能。階段室部分を改造したり、建物の外壁に新たに外付けしたりして、エレベーターを新たに設置する工事は、特別決議であると例示されております。

これは、どう考えればよいのでしょうか?

それは、いわゆる「変更」にも二種類あって、実質的に「修繕」であるものは軽微変更と考えて普通決議で可能であり、実質的にも「変更」であるものは特別決議が必要であると考えているようです。

つまり、一般的な大規模修繕は普通決議でOKと教わると思いますが、それは形式的には変更行為に該当するとしても実質的に「修繕」であるからです。

それに対して、EVを階段室へ変えるというのは「修繕」とは言えず、実質的にも「変更」にあたるので特別決議であるということになります。



ということで、まとめると

①第1基準を頭の片隅に置きつつ

②まず、第2基準その1(工事の度合い)をチェックして、建物の重要部分をゴリゴリやってたら特別決議とする。

③次に、第2基準その1(工事の度合い)が不明の場合、第2基準その2を使って、実質的に考えて「修繕」なのか「変更」なのかをチェックして、「変更」であれば特別決議とする。

という感じで、判定してください。

おおむね、マンション標準管理規約から推察される国土交通省の実務見解は、そういうことであろうかと思われるからです。



以上の評価基準により実際の評価に入ります。




<肢1>

これは上手なフェイクが入っています。練習ではどうということはないですが、いいかげんな練習をしていると本番ではひっかかります。

「賃貸」=管理行為なので、特別決議不要と結論づけるのを狙っているのです。しかし、本問は特別決議になります。



まずは、管理組合は「敷地」の管理ができるかどうかが問題となります。

(これは丁寧に検討してください。そもそも管理権限がなければ特別決議でもダメということになりますから)

これについては、問題文に団地であるという記述ななく、「区分所有者の共有に属する敷地」とあるので、普通に21条を適用して、管理組合に管理権限ありとしてよいでしょう。

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区分所有法21条 

建物の敷地又は共用部分以外の附属施設(これらに関する権利を含む。)が区分所有者の共有に属する場合には、第17条から19条までの規定は、その敷地又は附属施設に準用する。

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次に、

「樹木のある場所」⇒「駐車場」に変えるのは、形式的にも実質的にも変更にあたるので、重大変更すなわち特別決議が必要となります。

(前回解説しました評価基準を参考にしてください)




<肢2>

まず、「集会所として使用するため」とあり、これは法律の問題でよくあるパターンのひとつなのですが、

「理由は関係なく現実の行動で判断」

というのが原則的な話です。

理由というのは、主観的、内心的な話です。主観的、内心的な話は、外部の人にとってはさっぱりわかりません、わからないことで、いきなり取引が有効になったり無効になったりしてはたまらないでしょう。

「理由は考慮せず」というのが一応の原則になると考えてください。

で、「土地及び建物を購入」ですが、これは管理ではないので管理組合の権限の範囲ではなく、区分所有法の集会の決議で決めることはできないと考えるのが良いと思います。

管理とは、「保存行為」「管理行為」「変更行為」の3つをいいますが、「土地及び建物を購入」はどれにも当らないので、不可ということでいいでしょう。




<肢3>

まずは、区分建物が対象ですから、管理組合の権限であるのはいいでしょう。

次に、「外壁のひび割れに係る補修工事」ですが、前回の基準を使えば実質的には「修繕」ですので、特別決議にならないのは明らかと考えられます。

よって、解答はそれで出ますが・・・

ただ、これが「保存行為」なのか「軽微変更」なのかは、工事の内容等が不明ですので、どちらとも言えないかと思われます。

一応、一般論として、単純修繕(純粋な修繕)は保存行為と考えますので、もし「保存行為」なのか「軽微変更」の判断が必要な問題があったとすれば

単純な修繕(修繕のみ)⇒ 保存行為

変更を伴う修繕 ⇒ 軽微変更

というような基準で判断するのがよろしいかと思われます。



<肢4>

まずは、「駐車違反の停止を請求」は行為の停止請求にあたります。

そして、57条は弁明の機会が不要ですので、○×の観点からは、それで答えはでます。

ただ、厳密にいえば、それ以外にも若干の問題があります。

57条ー60条の請求は、

「他の区分所有者の全員又は管理組合法人」が行為をした「区分所有者」に対してする請求です。管理組合がするわけではありません。

よって、この問題では、その部分でも問題ありということになります。




57条ー60条の請求は、「誰が」「誰に」対して請求できるかという論点は頻出ですので、一応、復習しておきます。

「誰が」

原則 「他の区分所有者の全員又は管理組合法人」

例外 集会の決議による授権があれば

   「管理者又は集会において指定された区分所有者」

「誰に」

「区分所有者」「占有者」(第三者が悪いことしてもこの請求は不可)