マンション管理士試験過去問研究(第2回)解説編(1)
では、まずは、復習問題の解説です。
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平成17年度マンション管理士試験 問3
不動産業者が建設し、分譲したマンション(マンションの管理の適正化の推進に関する法律第2条第1号イのマンションをいう。以下同じ。)の共用部分及び専有部分に、施工時の瑕疵による損害が発生した。この場合において、当該マンションの管理組合(区分所有法第3条に規定する区分所有者の団体をいう。以下同じ。)の管理者等が行う不動産業者に対する損害賠償の請求に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、誤っているものはどれか。
1.管理者は、共用部分に発生した損害について、区分所有者を代理して、損害賠償を請求することができる。
2.管理者は、専有部分に発生した損害について、区分所有者を代理して、損害賠償を請求することは、当然にはできない。
3.管理組合は、共用部分に発生した損害について、当然にその名において損害賠償を請求することができる。
4.集会において指定された区分所有者は、共用部分に発生した損害について、区分所有者全員を代理して、損害賠償を請求することができない。
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さて
肢1、肢2では、とりあえず、区分所有法26条2項が問題となります。
区分所有法26条2項
2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第18条第4項(第21条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
条文に「共用部分」は出てきますが、「専有部分」は出てこないので、
共用部分⇒○ 専有部分⇒×
とするのは、さすがに安易です。しっかり検討しましょう。
この条文では、共用部分「等」とありますので、共用部分以外のどの部分が「等」にあたるのかを検討しなければなりません。
もしかしたら「等」の中に専有部分が含まれるかも知れませんから。
しかし、実は、検討するまでもなく「等」の意味は、ひとつ前の条文である26条1項に書かれております。
区分所有法26条1項
管理者は、共用部分並びに第21条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第47条第6項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
ということで、この「共用部分等」の「等」は、当該建物の敷地及び附属施設のことであることが明らかにされております。
(ただし、正確に理解するためには条文でいう「第21条に規定する場合」という場合がどういう場合かを理解しなければなりません。)
よって、クイズの解答という意味では、26条1項&26条2項により専有部分は含まないということでよいこととなります。
しかし、例によって理由を考えてゆきます。
じゃあ、なぜ専有部分は含まないのか?ということですが
簡単にまとめますと
専有部分は、専有部分の所有者が管理等するのであって、管理組合は原則としてノータッチである。というような説明になるでしょうか。
これにつきましては、受験本は当然として、専門書でもたぶん解説はないと思います。
なぜなら、ある意味「当然」とか「常識」のように考えられていて、解説するまでもないということなのだと思われます。
しかし、「当然」とか「常識」のように考えられていることをきちんと説明することを基礎ができていると呼ぶのです。
当たり前のことをキチンと説明できることは、とても価値の高いことですので、あえてこの論点を丁寧にやることとします。
前回お話しました管理者の共用部分等への代理権は、なぜ与えられたのか?
⇒ マンション管理士試験過去問研究(第1回)〜解説
いうなれば、バラバラ請求⇒修繕⇒バラバラ徴収って、「面倒くさい」ってことですよね。
どうせ修繕するのなら、管理者が請求⇒修繕、のほうが面倒がなくていい。
ところが専有部分の場合、
そもそも専有部分の修繕はその部屋の所有者がするのであって、管理組合はしないというのが原則です。(標準管理規約との兼ね合いは、もちろんありますが、原則に変わりはありません)
理由は簡単。自分の所有物だから、自分でお金を払って修繕するしかないからです。
そうすると、
<所有者がそれぞれ請求>⇒<所有者がそれぞれ修繕>
ということで面倒もなにもないわけですよ、実にシンプルです。
管理者へ代理権を与える必要がないどころか、もし、管理者が専有部分の損害賠償金の請求・受領を代理したとしたら、受け取ったお金をどうするのでしょう?
管理者に専有部分の修繕権限はないですから、修繕できません。横領でもするしかないですかね(笑)
管理者に専有部分の損害賠償金の受領権限を与えるって無意味というか有害かもしれないってこと、ご理解いただけましたでしょうか。
と、いうことで、わざと、いろいろ大げさにお話しましたが、
大切なのは
「疑問を持ち」⇒「自分の頭で考えて、状況を想像し」⇒「一定の結論を導くこと」
です。
もちろん、自分なりの結論でOKです。
上記は、私が適当に考えて適当にお話しているわけですが、皆様は皆様なりに理由づけができればよいのです。
その考えを重ねることが皆様を真の実力者へと導くのです。
今回はひとつのサンプルとして、いろいろお話をしてみました。
ううむ、そうですね。。。。。。。。
これは、結構、根深い話がありますので、そのあたりの話は別の機会に詳しくやることとしましょう。
今日のところは、「いろいろ考えるのが大切なんだな」ということにしておいてくださいませ。
次に肢3ですが
26条2項には「管理者」と書いてあって「管理組合」と書いてないので
管理者⇒○ 管理組合⇒×
とするのは、かなり安易ですね。そもそも肢1、2と肢3では、問われていることが違います。
肢1、2は、管理者が、「代理して」請求できるかどうかの問題です。
肢3は、管理組合が、「当然にその名において損害賠償を請求」できるかどうかの問題です。
つまり
肢1、2 ⇒ 代理人になれるかどうかの問題
肢3 ⇒ 当事者になれるかどうかの問題
と根本的に違うわけです。
よって、26条2項は、そもそも無関係ということになります。
では、どう考えればよいのでしょうか?
これも前回の解説が参考になります。
⇒ マンション管理士試験過去問研究(第1回)〜解説
つまり、共用部分に瑕疵があった場合、共用部分の所有者は区分所有者全員ですから、区分所有者全員が被害者となります。
管理組合というのは、あくまで建物を管理するための団体であって、建物の所有者ではありません。管理組合の構成員は区分所有者全員ですが、「区分所有者全員」=「管理組合」ではないのです。
そして、本件の被害者は「区分所有者全員」であって「管理組合」じゃないということなのです。
そうすると、請求権限は被害者である「区分所有者全員」にあって、「管理組合」という団体にはないということは、ご理解いただけましたでしょうか。
さて、肢4ですが
肢4のような共用部分等について生じた損害賠償金の請求は、
管理者は26条2項によって、区分所有者を代理して請求することができます。
区分所有法26条2項
2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。18条第4項(第21条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
では、同じように集会で指定された区分所有者が、共用部分等について生じた損害賠償金を請求することができるのでしょうか?
これにつきましては、とくに指定区分所有者への授権を認めた条文はありませんので、指定区分所有者はそのようなことはできないということで良いです。
結論はそれでよいのですが、考えるべきことがあります。
それは、以下の条文と関係のあることです。
区分所有法57条1項〜3項
1 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
共同の利益に反する行為したものに対して、停止等の請求を求める場合、原則としては「他の区分所有者の全員又は管理組合法人」が請求主体となりますが(1項)、集会の決議による授権により「管理者又は集会において指定された区分所有者」へ訴訟追行権を与えることができます(3項)。
つまり、共同の利益に反する行為への措置(57条ー60条)の場合は、指定区分所有者への授権が認められるのに対して、共用部分等について生じた損害賠償金を請求については指定区分所有者への授権が認められないのはなぜなのか?
理由については分からなくともよいですが、
「これって、おかしいんじゃないの?」
とアンテナが働けば、かなりセンスがいいですね。
考えてみてくださいませ・・・
ここで、何が問題なのかといいますと、
26条の場合も57条の場合もシステムは同じなのですよ。
区分所有法全員でやるのは面倒だから、特定の者に代理権あるいは訴訟追行権を与えて、みんなを代表してやってもらおうと。
面倒だから利便性のために代表者にやってもらうということであれば、内容はまったく違いますが、状況は同じじゃないですか。
同じ状況なのに、どうして片方はOKで片方はダメなのか???
さて、その理由なのですが、難しいです。
合格レベルを遥かに超えていると思いますので、以下は参考ということで読み流してください。
私としましても100%の確信はないですが、おそらくこういうことだろうと考えております。
この問題は、職務権限の有無ということで違いが出てきているのだと思います。
26条は、管理者の職務権限(1項)を前提に、代理権(2項)を与え、その範囲内で訴訟追行権を与える(3項)という構成になっております。
つまり、あくまで職務の範囲で代理なり訴訟追行してくださいね、ということです。
管理者の仕事は「管理」ですから、通常の職務権限は「管理」のことに限定されます。
しかし、その通常職務である「管理」を遂行するにあたって、共用部分等について生じた損害賠償金を請求・受領権限があれば便利である。
よって、特別に法定代理権として共用部分等について生じた損害賠償金を請求・受領権限を管理者に与えたということになります。
職務権限があるものに代理権を与えれば便利だろうということで、管理者のみが代理権を持つという帰結になるのです。
それに対して、共同の利益に反する行為への措置(57条ー60条)の場合は、そもそも管理者の職務権限ではありません。
そう、この場合は職務権限が前提とならないので、あえて管理者でなければならない必然性がないわけです。
よって、管理者でもいいけど管理者じゃなく指定区分所有者でもいいですよ、ということになるのだろうと思います。
説明があまり上手ではないと思いますが、上記をまとめると
26条の場合 ⇒ 職務権限が前提となる ⇒ 管理者のみ
57条ー60条の場合 ⇒ 職務権限が問題とならない ⇒ 管理者だけでなく指定区分所有者でもOK
という感じになりましょうか。
以上は、私が考えた理由づけですので、本当はもっとスゴイ理由があるのかも知れません。
もし、ご存知の方がいらっしゃたら、ご教授いただければ幸いです。