マンション管理士試験過去問研究(第4回)解説編

では、マンション管理士試験過去問研究(第4回)の解説をやります。

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マンション管理士試験平成15年問32

マンション管理会社の業務に関する次の記述のうち、マンション標準管理委託契約書(以下「標準管理委託契約書」という。)によれば、適切でないものはどれか。

1.外壁のタイルが落下したので、屋上から壁にかけて防護網を設置し、子供が近づかないよう注意する看板を立てた。

2.居住者が行方不明となっている住戸から異臭がすると他の居住者から連絡があったので、その住戸に立ち入り、その原因を確認した。

3.パイプスペース内のメーターボックスの前に、メーター検診が行えない状態で物が置かれているので、その物を置いた者に対し、速やかに撤去するよう求めた。

4.区分所有者からその所有する専有部分の売却依頼を受けた宅地建物取引業者の求めに応じ、その区分所有者の管理費滞納額を教えた。

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前回も少しお話しましたが、実務系の問題というのは、一義的に正解がハッキリしないというところがあります。

そうすると、予備校なり講師としては、「見解」を出すしかないわけです。

が、苦労して研究して「見解」を出して、批判されたり叩かれたりするのはバカらしいし、ビジネス的にも損ですので、適当に根拠だけを示して逃げてしまうのが得策ということになります。

だから、上記のような問題は、テキストとか過去問題集では解説はほとんどしていないと思います。

そこで、私は私の見解により、「判断基準」を明らかにしたいと思います。

逃げて無難なことしかいえないエライ先生でいるよりは、独自見解をバンバンだして愚か者と呼ばれるほうが何百倍も価値があると思っているからです(笑)

では、やりましょう。






肢1と肢2ですが、

マンション標準管理委託契約書第8条の、あえて明文に着目すると

「災害又は事故等」&「緊急」&「時間的な余裕がない」

⇒ 「承認を受けないで実施することができる」

と分解することができます。

つまり、「災害又は事故等」で緊急性があって時間的な余裕がないものは、管理組合等の承認なしで実施するのもやむをえない。

という大まかな「判断基準」となるわけです。

この判断基準の利点は、条文に忠実なところです。

試験の出題側としては、条文に忠実な基準というのは、好ましいでしょう。

よって、私の見解では、上記基準で問題が作られているものと推測しております。

では、実際の問題に当てはめてみましょう。

肢1

「外壁のタイルが落下した」⇒「事故」&「緊急性あり」

というところはいいかと思いますが、「時間的な余裕がない」かどうかは微妙なところはあります。

が、そこで「子供が・・・」といっております出題者の意図を慮ってくださいませ。子供が危険にさらされている=「時間的な余裕がない」のでしょう。

よって、適切となります。





肢2

「居住者が行方不明」=それだけでは、事故かどうかは不明です。事故かも知れないけど、世界一周豪華客船の旅に行ってるかもしれないですし、プライベートなことですので、よくわからないですよね。

「異臭がする」=ガスとか石油とかニオイであれば「緊急性」&「時間の余裕なし」といえると思いますが、単なる「異臭」では、市役所とか警察とか関係機関に通報する時間もあるし、管理組合として協議する時間もあると思います。

現実的に、長期不在で生ゴミとか捨て忘れてたら異臭くらいはしますよね。



よって、緊急時として承認なしでの立ち入りはできない。




というところでしょうか。

基準としては、シンプルに

「災害又は事故等」&「緊急性あり」=緊急時の業務可能

くらいでいいと思います。


肢3

これは、根拠をきちんと言えるようにしておきたいものです。

「パイプスペース内のメーターボックス」は、マンション標準管理規約にありますように、共用部分となります。(これが大切で、もし専有部分であれば、管理組合とか管理会社は原則として口出しできなくなるからです)

「メーター検診が行えない状態で物が置かれている」=共同の利益に反する行為

「速やかに撤去するよう求めた」=もし、区分所有法57条(行為の結果を除去)の訴訟をするには、管理会社ではできませんが、訴訟外で撤去を求めるのは可能。

よって、本肢は適切



肢4

管理費滞納額を外部の人間である宅地建物取引業者に教えるというのは、プライバシー等の観点より、とても違和感のある話です。

しかし、逆説になりますが、もし宅地建物取引業者への滞納額の開示をしなかった場合、宅地建物取引業者は法律で定められた重要事項説明を適切に行うことができません。

そうすると、事実上、取引が困難ということになってしまいます。

滞納額というのは、プライバシー等を強調すると個人情報のように思われますが、不動産の取引の観点からは、オープンな情報でないと取引の安全を損ないます。(理由は、ご存知のとおり、区分所有法8条により滞納管理費等の債権は新買主にも支払い義務があるからです)

よって、管理会社の業務として、滞納管理費情報の開示は適切ということになっております。




ということで、いかがでしたでしょうか。

実務系の場合、判断基準や根拠を考えることは大切です。

そういうことを考えないで、標準委託契約書○○条により適切、みたいな過去問集の解説だけ読んでいると、条文そのままのクイズ問題しか解けるようにはならないです。

実務系は事例問題が多いですので、できればクイズ的勉強よりも1歩進んだ勉強をしてほしいと思います。



がんばりましょう!