マンション管理士試験過去問研究(第1回)解説編


では、昨日の問題の解説です。



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平成20年度マンション管理士試験 問4

マンション業者AがBに設計・工事監理を委託し、Cに施工を請け負わせて建築した甲マンションは、B及びCが必要な注意義務を怠ったため、共用部分に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があることが分譲直後に判明した。その瑕疵のため甲マンションの区分所有者の生命、身体又は財産が侵害された場合における、管理者が区分所有者を代理して行う共用部分の損害賠償請求に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定並びに判例によれば、誤っているものはどれか。ただし、分譲契約に特約はないものとし、分譲時から区分所有者に変更はないものとする。

1 管理者は、Aに対して、分譲契約上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求することができる。

2 管理者は、Bに対して、不法行為に基づく損害賠償を請求することができない。

3 管理者は、Cに対して、不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。

4 Aが建物の基本的な安全性を損なう瑕疵があることを知って分譲した場合は、管理者は、Aに対して、不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。

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まずは、管理者の代理権限についてです。



区分所有法26条2項

2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第18条第4項(第21条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。




と条文にありますので、管理者は区分所有者を代理して本問肢1〜肢4について、損害賠償請求できることとなります。

ということで、正解を出すだけなら「区分所有法26条2項のとおり」ということですが、話の内容、意味を理解するのが重要となります。



「共用部分等について生じた損害賠償金」という状況は、本問のように共用部分について何らかの欠陥があったときに、その欠陥を与えたものに対して損害賠償という形で責任を問うということです。

このときに自然に考えれば (法律的に考えても結論は同じですが)

<被害者>⇒⇒(損害賠償請求)⇒⇒<加害者>

ということになりますよね。

そうすると、共用部分というのは区分所有者全員の共有財産ですので(11条)、被害者は当然区分所有者全員(管理組合ではないことに注意!)ということになります



<区分所有者全員>⇒⇒(損害賠償請求)⇒⇒<加害者>



ということですね。

具体的には、共用部分の持分割合に応じて(14条)、各区分所有者が加害者へそれぞれ請求するということになります。

しかし、それって面倒なんじゃないの?ってことです。





つまり、共用部分にダメージが与えられて損害賠償金が手に入ったのですから、普通はその損害賠償金で共用部分を修理しますよね。

ところが、各区分所有者が加害者へそれぞれ請求するということであれば

<各区分所有者がバラバラに請求>⇒<管理組合が修繕>⇒<修繕費用を各区分所有者へ請求>

と入口も出口もかなり面倒なことになります。

そこで、管理者に代表して請求・受領する権限を与えておけば

<管理者が請求・受領>⇒<管理組合が修繕>

とてもスムーズに事が運ぶということになります。

と、いうことで

管理者に代理権が与えられた意味はご理解いただけましたでしょうか。






また、条文では「損害賠償金」としか書かれていないので、それが債務不履行なのか瑕疵担保責任なのか不法行為なのか不明です。

しかし、意味から考えますと、共用部分に与えられたダメージの原因によって、区別するのは変です。債務不履行でも不法行為でも上記の状況に何ら変わりはないわけですから。

よって、債務不履行瑕疵担保責任不法行為のいずれについても管理者は区分所有者を代理して共用部分等について生じた損害賠償金を請求・受領することが可能となります。




つぎに、どういう種類の責任追及ができるのか?についてです。

基本的事項の復習になりますが、債務不履行瑕疵担保責任不法行為の使い分けは以下のようになります。



契約の相手方への責任追及 ⇒ 債務不履行瑕疵担保責任

契約とは関係なしの責任追及 ⇒ 不法行為

さらに

契約以前にすでにトラブルが発生していた ⇒ 瑕疵担保責任

契約後にトラブルが発生した ⇒ 債務不履行



ということになります。これは、いいですよね。



そこで、今回の事例では、契約の相手方に対して、契約以前から瑕疵についての責任追及ですので、債務不履行ではなく瑕疵担保責任の問題となります。(肢1)

なお、瑕疵担保責任は無過失責任ですので(無過失責任につきましては、別の機会に)、Aは問題文上は故意・過失があるのかないのか不明ですが、責任追及は可能ということになります。

また、BとCについては、区分所有者は直接の契約関係にないので、責任追求できるとすれば不法行為の問題となります。(肢2、3)





さらに、Aに対して、瑕疵担保責任不法行為責任は並存するのか?という問題ですが、これは論理的には難しい問題です。両立できないと考えるのもアリとは思います。

しかし、一般的には、瑕疵担保責任が追求できる局面であっても、不法行為の要件を満たしているのであれば不法行為責任を追及できるとされております。

これは、理解しておいて損はない考え方と思いますが、被害者が救済されやすくなること(有利になること)を重視しましょうとする考え方です。

つまり、瑕疵担保責任不法行為責任のどちらでもいけることにしておけば、やりやすいほうを被害者としては選択できるわけですから、被害者にとっては有利なわけです。

具体的には、

不法行為責任を追及するには、相手方の故意・過失を立証しなければなりません。

瑕疵担保責任は、故意・過失は不問ですので、故意・過失の立証が難しい場合は、瑕疵担保責任が追求できれば被害者にとってはありがたいわけです。

また、瑕疵を知ったときから1年以上経過している場合、瑕疵担保責任は時効にかかったとしても不法行為の時効である3年が経過してなければ、不法行為責任は追求可能だったりします。

つまり、瑕疵担保責任不法行為責任も被害者を救済するための法技術にすぎないので、被害者救済の観点からは両方が使えるほうが救済されるチャンスが広がり望ましいというわけです。

よって、瑕疵担保責任が追求できる局面であっても、不法行為の要件を満たしているのであれば不法行為責任を追及できます。(肢4)

なお、同じようなものには

詐欺取消と錯誤無効の両方の要件を満たした場合とか、表見代理の要件を満たしているがあえて無権代理を主張するとか、があります。

ぜひ、ご復習くださいませ。




最後に、

「ただし、分譲契約に特約はないものとし、分譲時から区分所有者に変更はないものとする。」

という、ただし書きについて、



「分譲契約に特約はないものとし」ですが

民法には契約自由の原則がありますので、特約によって瑕疵担保責任を排除することができます。

よって、このただし書きがあれば、そういうことを心配しなくて、民法どおりに答えればよいことになります。

ちなみに、本問では品確法、宅建業法の適用がある可能性がありますが、問題文で「区分所有法及び民法の規定並びに判例によれば」とありますし、仮に適用があったとしても本問については結論が変わるわけではないので、ここではスルーしていいでしょう。

また

「分譲時から区分所有者に変更はないものとする。」ですが

たとえば、

<分譲業者>⇒ X ⇒ Y

と売買された場合、区分所有法26条2項では、管理者は「区分所有者を代理する」とありますので、管理者は区分所有者Yを代理することはできますが、現在は区分所有者でないXを代理することはできません。

ところが、分譲業者に対する瑕疵担保責任による損害賠償請求権は、YではなくXにありますので、管理者は代理して行使することができません。

そうすると分譲業者から直接買った原始所有者がそのまま現在の所有者である部屋の共有持分についての請求は代理できますが、転売されてしまっている部屋の共有持分についての請求は代理できないこととなり、訳のわからない状況になってしまいます。

そこで、本問の注意書きがあれば、全室が

<分譲業者>⇒ X(区分所有者)

ということですので、現在の区分所有者全員が瑕疵担保責任による損害賠償請求権を持ち、それを管理者が代理して行使することが可能になります。

(つまり共用部分全部について行使可能ということです)




いかがでしたでしょうか?

ブログという性質上、通常の3割程度の説明しかできませんでしたが、おおむね雰囲気はつかんでいただけたと思います。

丸暗記じゃなくて、勉強することが大切、ということの感じだけでもつかんでいただければ幸いです。

がんばって勉強しましょう。

今日は、お疲れさまでした。